奈良墨工房 錦光園


江戸時より代々150 年以上、伝統を守り昔ながらの製法で「奈良墨」を一つ一つ手作りで作り続ける墨工房。
明治時代、奈良でも由緒ある墨工房「古梅園」につとめていた長野亀吉が独立・創業。
現在は六代目墨匠・長野墨延と七代目墨匠・長野睦が、その伝統を守り続け、従来の固形墨作りを地道に行いつつも、書道以外でも固形墨の用途の幅を広げるための活動や奈良墨の啓蒙活動を行う。

1人でも多くの方に墨の魅力を伝え、この先も奈良墨を前に進めていきたい

①日本全国47都道府県「すみからすみまで墨のおはなし」

 書道人口の減少、学校授業においても墨汁を主として使用され、墨の生産量は50年前の1/30に減少。相次ぐ墨屋の廃業、職人や関係者も減少し、技術の承継もままならないまま時間ばかりが進み、このままでは奈良墨はいずれ遠からず製造そのものができなくなってしまうと言われています。そのような中、衰退していく産業、需要が無くなっていく固形墨に対する顧客層への新たなアプローチのひとつの方法として、認知拡大のための学校教育現場で墨作りについて紹介、出張講義や墨作り体験、墨の作り手を紹介する取材&webページの作成、様々なイベントでの奈良墨啓蒙活動などを行い、奈良墨が必要とされる将来につながるよう取り組んでいます。

「すみからすみまで墨のおはなし」は、2021年、奈良墨認知拡大のための活動費としてクラウドファンディングを活用し、墨の魅力と文化を伝える全国行脚プロジェクトです。墨に纏わる文化の歴史と魅力を分かりやすく説明する座学に加え、拾ってきた石で磨った墨で手紙を書くなど、オリジナルな切り口でワークショップなどを実施しています。

島根県津和野町
ワークショップの様子1
島根県津和野町
ワークショップの様子2
島根県津和野町
ワークショップの様子3
東京でのワークショップ

②奈良県の伝統工芸品を未来へ繋げる「奈良墨×東とみプロジェクト

奈良市立東登美ヶ丘小学校が、50年後の奈良を考えるプロジェクトとしてスタートしたもので、伝統工芸に携わる人々の人生や、想い、技術に触れ、様々な奈良県伝統工芸品の魅力を深く学ぶ総合学習となっています。オンラインの授業を含め5回の授業を担当し、奈良墨の現状と課題を児童と共に考えてきました。当初は課題を話し合うという内容でしたが、活動を進める中で、子供達に可能な限り何かを体験・経験させてあげたいという先生方の熱意に応えるため「児童たちが考えてくれたものを本当に実現させる」こととなりました。4年生による約30チームが自ら企画・プレゼンを行い、その中から4つを実現させていくこととなりました。
①3年生に対して墨のことを伝える校内イベント
②外部に向けた墨の情報をまとめたチラシづくり
③平城旧跡での一般向けワークショップ
④新商品開発
児童たちが主体となって考え・活動を進め、平城京跡でのイベント、チラシ作り、新商品が実現されています。私どもも新商品の開発・製造に取り組み、子供たちの思いに応えられるよう努めています。

授業の様子1
授業の様子2
生徒が制作したパンフレット
新商品の木枠

③ 必要とされる存在に

需要が激減している中、従来の方法で従来の固形墨を販売するだけでは、今ある状況を変えることができないことはわかっていました。だからこそ守るために変わることを考え、奈良墨の新たな価値を見つけ出すことから始めました。考えれば考えるほど、まだまだ奈良墨には様々な角度の魅力が隠れていたことに私自身も気付かされました。そのひとつが「香り」。書道のとき固形墨をする行為は精神を落ち着かせ、集中するためと言われます。実はこの固形墨の香りそのものにそうした効果あると考えています。そこから香りに注目した「香り墨 Asuka」が誕生しました。

「香り墨 Asuka」には、職人の卓越した技術と経験はもちろんのこと、ものづくりに対する情熱、そして何より「奈良墨のことを少しでも知って欲しい」そんな切なる願いが込められています。

複雑な形状の墨の形を整える
縁起の良い3つの面
香り墨 Asuka

④ 奈良の産業や地域の将来を考える

 墨屋にとっては木型無くしては墨を製造することが出来ず、墨木型は「墨屋の魂」といえるものです。そのような大切な木型ですが、時代の波と共に廃業された墨屋さんの木型が錦光園へ流れ着き、日の目を見ることなく眠ったままとなっていました。
 「何とかもう一度活躍の場を与えてあげたい」と常々考えていたところ、ふと視界に入った木型の箱を見て、試しに小さな生墨を墨木型の表面に押し付けてみところ、これまでにない小さな墨と美しい模様ができました。これが「おはじき墨」誕生のきっかけとなりました。試作品をSNSに投稿したところ反響があり、皆様からのご意見を踏まえ、本格的に製造を開始しました。
 この「おはじき墨」は、墨を通して木型職人の芸術的な技術を感じてもらい、気軽に使ってもらうことを目的に、中身だけでなく墨を入れる裂(きれ)袋にもこだわり、大原和服専門学園様のご協力のもと、日本の長い歴史の中、継承してきた和裁の技術を活かした裂袋を製作していただきました。

おはじきのように集める楽しさがあり、愛でる愉しさがあり、さらに香りを愉しみ、墨として磨り、書いて愉しむ。
そんなこれまでにない様々な思いが詰まった奈良墨が「おはじき墨」です。

木型の美しい模様
縫製作業の様子
おはじき墨1
おはじき墨2
錦光園
奈良市三条町547
創業/ー
業種/奈良墨の製造・販売
URL/https://kinkoen.jp/